12.21.2010

Sunday Silence

私が初めて自分で営業して頂いた雑誌ナンバーの仕事、1994年。
当時、中古のローライフレックス2.8GXと
100ミリ付きのハッセルで撮影した6×6の写真ばかりのブックを
見て頂いたナンバー編集部のデザイナーの関口さんから、
馬をモノクロで6ページの お仕事を頂いた。
「ハッセルでがつんとモノクロで!」と言われたのはいいが、
持ってるのはレンズ100mm一本のみ。
もちろんそれで臨むことも考えたが、
ハッセルのセットくらい持ってないと話にならん!と思い込み・・
たしか撮影まで半月くらいだったと記憶しているが、
死ぬ気でお金を集めて、銀座のレモンでハッセルを買いそろえた。
ハッセルのショーケースの前で、これとこれとこれ、、
ポラバックも下さい!
と言ったのはほんとうに気持ちが良かったし、
記念すべき写真人生の気合いの1ページだった。

今だったら望遠用の35ミリや、
リモート撮影用の機材も準備したくなるところだが
当時はショルダーのタムラックにハッセル2台とレンズ4本をつめて
馬に対してはストロボは使えないので、、
「刀は一本で十分!」な感じだった・・・

北海道の社台ファームで、
初日サンデーサイレンスの様子を見ながら撮影し、
どうしても馬が走るところを撮りたかったこともあり、相談すると、
早朝に馬小屋を出るときだけしか走らないとのこと・・・
翌日、レンタカーで眠そうな編集の今泉さんとファームに向かった。
初仕事で車を借りるのも、すこし気が引けたが、
そんなことより日本で一番のサラブレッドを
自分が撮影できる喜びでいっぱいだった。

いざ、、走るといっても、柵をあけた瞬間に飛び出ただけだった。
手巻きのハッセルでたしか2枚しか撮れなかった・・
種付け数千万ということで、撮影ごときで刺激して、食欲が落ちたら
だれも責任がとれないので慎重に撮影しなければならない状況で、
なんとかお願いして屋外で撮影させて頂いたのだが、
初めて使うディスタゴンで寄りすぎて、
なんと新品のレンズをなめられてしまった・・
カールツアイスの新品の前玉に緑の牧草ジュースの洗礼である。
50ミリのディスタゴンで馬の顔を狙って目にピントを合わせようとすれば、
必然的になめられる距離であることぐらいわかるようなものだが、
そのときは全身もおさえるつもりもあり、
はじめにワイドを付けていたんだと思う。。
とにかく迫力を出したくて、うしろでひやひやしている視線を感じながらも、
どんどん近寄って撮影した。
ちょうど空がプレーンな雲に覆われてシンプルな白バックにすることが出来た。
とにかく、楽しかった。
アシスタントもいないのでひとりでどんどんレンズを変えながら、
フィルムチェンジも新品のマガジン3つのみ。
夢のような4マガジンだった。。。
夢中になって被写体と対峙すると、
信じられない程、汗が吹き出るのも
このときに初めて感じたような気がする。

後日数百枚のプリントを持って、編集部に行ったら、みんな笑っていた。
気合いと自信のプリントだったが、今思えばたしかに多すぎる。

それ以来、レンズにはいっさい保護フィルターを付けないようになった。

奇跡のデビュー戦のバライタは今もリビングに飾ってある。

Hasselblad 500CM 150mm Try-X